平成の破滅型私小説家、西村賢太
この人の小説を初めて読んだのは、大学1年の頃だった。
夏休みに、俺は倉庫で日雇いのアルバイトをしていた。
一日中ダンボールを作っては壊すという、単純な作業に使役していた(今から考えてもなんつうバイトだよ)。
本当は衣服を畳んで箱に詰めるという、労働が任されるはずだったが、俺があまりに不器用なのを見かねた責任者じみた上司が、俺をこの何の意味も感じられない中世の奴隷のような作業に回したのである。
これは俺だと思った。
俺は当時大学生で、西村賢太は中卒だから立場が違う、というのはあったが、俺は高校を中退していて、大学を卒業するまでは実質中卒という身分だったので、主人公に痛く感情移入することができた。
「根がどこまでもスタイリストに出来ている」などの作者独特の言い回しが笑いを誘い、破滅型の私小説でありながら、ユーモラスなエンタメ性を感じさせた。
日雇い労働で生計を立てる主人公・北町貫太の哀しき日常を共感、爆笑しながら読んでいた。
売れてから本当に腕が落ちたな、と思っていたけど、なんだかんだで文庫化されたものは全て買って読んでしまった。
そもそも西村賢太は破滅型だったのか、という疑問もある。
俺が思う、いわゆる伝統的な破滅型作家のスタイルは、「小説を書くために私生活を破滅させる」というイメージだが、西村賢太の場合はまず破滅が先にあって、それを小説で描くというスタイルだったと思う(父親が性犯罪を起こして一家離散とか、はなの生い立ちが悲惨)。
破滅が先か小説が先かで言えば、小説が先に来るのが破滅型作家だと思う(その意味で太宰や三島は破滅型)。
西村賢太は社会不適合者の性質は確実にあったが(傷害事件を起こして逮捕されるとか)、それでも売れてからは、少なくとも表面的には安定した生活を送っていたように思う。
小説もどんどん大人しくなっていって、後期は私小説というよりエッセイになっていた。
なんにせよ、現代文学では一番好きな作家でした。
もう新作が読めないと思うと、残念です。
ご冥福をお祈りします。
個人的西村賢太ランキング
1位 焼却炉行き赤ん坊
2位 苦役列車
3位 暗渠の宿