灰色
つい最近、破滅を迎えるかもしれない、そんなチャンスがあった。
俺は、ただそれに身を委ねるだけで良かったのだ。
しかし、そこで俺がとった行動とは...
俺は全力で拒絶していた。もがいていた。逃れようと、必死に這いずりまわっていた。
日頃から自殺願望、希死念慮などと闇ぶっておきながら、いざという時にこのザマである。
そのとき俺は、すべての「死にたい」という感情が偽りに思えた。
本物は皆、すでに語る言葉を持っていない。
この地上にいる、すべての鬱病患者を、俺は冷めた眼で見ていた。
そしてその視界には、俺自身も含まれていた。冷めた眼をした俺が、冷めた眼で俺を見ていた。
心の底から死を望むのであれば、機会を待ってはいけない。安楽死、通り魔殺人、不慮の事故...。
すべて非現実的である。
例えば、高層ビル、探せば見つかるだろう。
その屋上、あるいは、適切な高さの階から、勇気の一歩を踏み出すだけでよいのだ。
夢とか希望とか、あやふやなものに縋って、自分の人生の結末まであやふやにするなど、俺は御免被りたい。
数々の自殺した偉大なミュージシャンが俺に教えてくれたのは、「死は何にもならない」という事だ。
儚く死ぬより、不様に生きる。
そっちの方が、俺は感動するし、美しいと思う。