メルヘン音楽を求める旅 第二章 悠木碧『プティパ』
時は2012年。齢18にして、俺は終わっていた。
社会からドロップアウトした俺に容赦なく冠せられた「無職」という負の称号。現実から逃れるために音楽世界を彷徨い歩いていた俺が出逢った、分島花音の『少女仕掛けのリブレット』は、俺に「メルヘン・インパクト」をもたらし、その日から俺は御伽の国のパスポートを手に入れたのだ。
もっとこの世界に浸っていたい。
そんな時に俺は、最近リリースされた悠木碧という声優のアルバムが非常にメルヘンティックであるという情報をキャッチした。
早速俺はタワレコ横浜店に向かい、目当ての『プティパ』というアルバムを買った。(根がキモオタに出来ているので初回限定版を買った。)
このアルバムのコンセプトは、「箱庭の中の移動遊園地」らしい。よく分からないが、この手の人たちの考えるコンセプトは大抵よく分からないので、深く考える必要はない。
とにかくなんとなくメルヘンな雰囲気を感じたので、俺は良いと思う。
イントロダクション感全開の1.「ハコニワミラージュ」を経て、2.「回転木馬としっぽのうた」はワルツ!
メルヘンといえば、ワルツですよね。
歌詞の内容は、猫からおもちゃの回転木馬へのラブソング。
「白いたてがみ 金色馬車 まわるまわるよ 光の国...」
のっけから「ついてこれる奴だけついてこい」的世界観にゾクゾクします。
3.「ジェットコースターと空の色」は普通のアニソンライクな曲で、こういう曲も必要だよな、という安心と失望に包まれる曲。
4.「時計観覧車」はロキノン(死語)風のアレンジの曲。時計観覧車が好きな女の子の曲と思いきや、時計観覧車に乗る女の子が好きな時計観覧車が主人公の曲でした!(もう好きにしてくれ)
5.「Baby Dolly Alice」は、少女が人形(アリス)に語りかけるという曲。
「人形=アリス」はメルヘン法第1条に制定されているという事は皆知っていますよね。
この曲がヤバい!
「カナリア歌っている 薔薇のお庭 ブランケット敷いて...」
歌詞は、やり過ぎメルヘンワールドといった感じで、俺の大好物なのだが、2番のサビが終わったところで突然マイナーキーに転調する。
そこで少女の口から語られる真実。
「気付いたの ゴミ箱の中 私が埋もれてたこと Alice, Help me Alice 助け出してよ...」
なんとこの歌詞の主人公は、少女ではなく人形で、アリスの方が少女だったという仕掛け!
「時計観覧車」と同じロジックだが、メルヘン界の常識を逆手に取った優れた歌詞!
単に適当にメルヘンワードを散りばめただけの雰囲気モノで終わらない世界観に舌を巻いた。
メロディもキャッチーで名曲です。
回転木馬じゃなくてこっちをPVにすればいいと思うのだが(笑)。
6.「シュガーループ」はギターのリフから始まるハードロック系のアレンジで、なんか平野綾が歌ってそうだな、と思ったら、本当に平野綾風の歌唱をし始める悠木のヴォーカルにやや萎えるところはあるが、曲はキャッチーで良いと思います。
7.「Night Parade」は、またもワルツ!
笑い声なんかも入って、もはやヴィジュアル系!歌詞は例によって置き去り系メルヘンワールドだが、もうここまで来たら何でも受け入れられるようになっているので問題ない。
8.「ハコニワソレイユ」はエンディング感全開のしっとりバラード。
この箱庭の中の世界も終わりを告げる...でも、もう怖くない。きっとまた逢えるから...
正直大して期待していなかったのだが、これがとんでもない当たりを引く結果となった。
とにかく5曲目の「Baby Dolly Alice」が良い!
悠木の後のアルバム、『メリバ』、『イシュメル』も期待を裏切らないメルヘン名盤です。
これ以降、分島花音、悠木碧の両名は俺の中で二大メルヘンクイーンとして君臨する事になるのだが...
(メルヘン音楽を求める旅 第三章に続く...)